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久々に前回の復習だ。
プロットの確認ポイントを3つあげてみろ。
――「初めの状況」、「変化のきっかけ」、「結末(急展開)」。
よ〜し!
この3つだけは、最低限メモするなり自分の脳味噌に刻みつけるなりして、シナリオを書こう。
では、行くぞ。
――ばいば〜い。
バキッ!
だれがそんな突っ込みをしろと言った!
――ぐはあ……せっかく気を利かせたのに……。
◆状況を変える「きっかけ」が1つだと単純になる
今回は、プロットを立てる人のための実践術だ。
前回の3ポイントは、言ってみればバレーボールの攻撃であった。だが、レシーブ、トス、アタックの3点攻撃だけでは話が単調になってしまうのだ。
――え、でも4回も打っちゃうと反則で負けてしまうよ。
お、ここにいいバレーボールがあるな。
――ぎくっ。
アタ〜ック!
――ひでぶ!
はははは、スパイクが決まったぞ。
このように、問題はトスなのだ。
バレーボールの世界ではトスは1回しかできない。だが、シナリオの世界では何回も出来るのだ。
むしろ、1回だけでは話があまりにも単純になってしまうきらいがある。
――ボクチン好き嫌いないよ。
お、ここにいいサッカーボールがあるな。
――ぎくっ。
シュ〜〜ト!
――あじゃぷ!
おお、ゴールネットに突き刺さったぞ。頑張れニッポン。
トスというのは、言ってみれば「きっかけ」のことだ。きっかけが多いと話に深みが出る。
たとえばきっかけが1つしかない話を考えてみよう。『Fresh!』で言うと、だれだ。
――せせりと奈々かな。
では、まず女教師せせりから整理してみよう。
1 「状況」 せせりは彼氏がいなくて寂しくてたまらないが、学校にはいい男がいない。教師が自分に適職なのかも悩んでいる。
2 「きっかけ」 インターネットを始めたことがきっかけで、あるメール友達に惹かれていく。
3 「結末」 メール友達と会ってみたら、教え子であった。学校でも主人公に惹かれていたせせりは関係を結び、愛を告白する。
単純だな。
――話が浅かったからね。
ぐ。事実だな。
――どじな女教師がインターネットにはまってある子といい関係になってみたら、それが教え子だったって話だもんね。先生はいい味かましてたけど。
純粋にお話だけで見ると、そんなに大したものじゃないな。
――凄い直線的だった。
うむうむ、まるでストレートだ。深みなしってところだな。
さて、もう一人の奈々。
1 「状況」 大輔に一目惚れ。ストーク開始。
2 「きっかけ」 舞の手引きで大輔に会い、猛烈アタック開始。
3 「結末」 大輔と念願の初エッチ。思いを遂げる。
――これも直球勝負だったね。見え見えのストレート。
しかも、球速が足りなかった。
――あはは、へぼへぼの100キロ。
きっかけが1回しかないと、複雑な話にはなりにくいのだ。
――どうして?
人間ってな、そう簡単には変わらぬのよ。ボタンを押せばポチッとな、すぐ爆発、アラホラサッサ〜というわけにはいかんのだよ。
道に迷っていたら親切な主人公に教えてもらった。それだけでタカビー返上、主人公にトキメキ〜〜ン! なんてふうにはならんのだ。きっかけが1回だけだと、そのように単純な、きわめて都合のいい話になりがちだ。
◆状況を変える「きっかけ」が複数だと深みが増す
――きっかけがいっぱいあるとどうなるの?
いっぱいあると、いろんな畳みかけが出来るから、ユーザーをぐいぐい引き込むことができる。また、場面展開に説得力を持たせることも出来るので、しっかりしたお話を書くことが可能となる。
たとえば、舞の場合。
1 「状況」 中学時代、男みたいと言われて恋愛に傷ついている。誠心道の練習をさぼる大輔を思い切り嫌っている。小さい子が苦手。
2a 「きっかけ1」 大輔に誠心道の戦いで負ける。
2b 「きっかけ2」 後輩の奈々が大輔にお熱なのを知る。
2c 「きっかけ3」 大輔の弟と二人きりで3日間過ごす。小さい子が苦手でなくなる。
2d 「きっかけ4」 大輔が飯を作っていたことを知って驚く。
2e 「きっかけ5」 奈々が大輔に猛烈にプレッシャーを開始。恋敵として意識しはじめる。
3 「結末」 大輔と奈々の関係を勘違いして家出を強行。大輔、舞を連れ戻す。
――お、多い。
どうだ。この5つのきっかけを、どれか1つに束ねることができるか?
――うぐぐ。
3つにはできるが、1つにはできまい。
舞は、きわめて不器用な女の子だ。しかも、過去に恋愛で傷ついている。そういう傷ありの不器用な女の子が再び人を好きになっていくためには、それなりの理由が必要なのだ。
――ボクチンと違って屈折してる子だもんな。
おまえも十分に屈折しとるわい。
バキッ!
――ぐはあ……。講師のほうが絶対屈折してるぅ……。
◆「きっかけ」はストーリー展開に説得力を持たせる
よいか。
恋愛物語の場合、好きになっていく理由を見せてやるということは、説得力を持たせるということだ。
――困りますわ。いくら言われても買えないものは買えないんです。主人に叱られてしまいますわ。
だれが主婦をやれと言った! 気色悪いことすな!
バキ〜〜〜〜〜ッ!
――うぎゃあっ……なんて乱暴なセールスマンだ。
なんて気色の悪い弟子だ。
よいか。
説得力とは、お話運びによってユーザーを説得する力だ。
では、ユーザーに何を説得するのか?
――このゲーム買ってえ。ええゲームやでえ、うへ、うへうへ。
危ないオヤジすな!
説得力とは、ユーザーに対してキャラクターが変化した理由を説得する力だ。
――どうやってクラーク・ケントはスーパーマンに変身できるのか。
ゴン!
その変身ではない!
キャラクターが変化した理由とは、恋愛物語の場合、女の子が変わった理由だ!
舞の話でいえば、なぜ傷あり不器用な舞が、再び人を好きになってしまったのか。それも、初め印象の悪かった大輔を好きになってしまったのか、だな。その理由をちゃんと説明すること。
――彼女は、なぜか大輔を好きになってしまった。いや、なぜか、というのは当たってはいまい。大輔のその心の広さ、思いやりのあたたかさ、きつい言葉の裏に見え隠れするやさしい気持ちに、舞が気づいたのだ。そして、それが舞の、恋の始まりだった。
ピシッ!
――はうっ!
だれが文章で理由を書けと言った。
――あれ、だめなの?
当たり前だ!
理由を一連のシーン、ストーリーで示してやれ。小説でも純文学でもないんだぞ。
ゲームなんだぞ。
ゲームでだらだら文章書くな。クリックするユーザーの気持ちを考えい。
――マジメな話だからせっかくボケかましたのに。
ボケかまさんでも貴様はボケじゃ。
――しどい。いくらなんでも真実すぎるわ。
◆ゲームとは、台詞とヴィジュアルで見せるストーリーである
ことアドベンチャーゲームに限って言おう。それも美少女ゲームのだ。
ゲームとは、台詞と絵で見せるストーリーである。
――それってマンガ?
マンガに近い。だが、マンガはコマ割りがある。ゲームはコマ割りがない。いつも同じ640*480のサイズ(2002年現在、800*600のゲームが増えてきている)。
――同じだよね。
そうだ、同じだ。映画のようにがんがんショットを変えられない。女の子がしゃがみこんで泣き出すシーンを連続で描けるか?
――無理。
そうだ、ゲームでは無理なのだ。こと演出に限れば、美少女アドベンチャーゲームというのは自由の利かぬ、ワンパターンな構造をしとるのだよ。
だからこそだ。
ほんとうに単純な話にしてしまうと、ばればれになってしまうのだ。
――ふうん。
効果音や音楽を駆使するのも、それがなければきわめて平面的な、ぺったんこの退屈なものにしかならないからだ。音楽のない美少女アドベンチャーゲームなど、救いようのない代物だぞ。
――確かに。
だからだ。
お話を書くとき、プロットを立てるときに考えねばならない。
わかりやすい、いただきぃ! みたいなかる〜い、媚びまくりの話を書くのなら、単純なプロットでいい。「きっかけ」も1つでいいだろう。
だが、人の心を打つ話を書きたいのなら、「きっかけ」は複数考える必要がある。
――それをビジュアルで示す。
そうだ。
◆「きっかけ」を増やすとCGも増える、その二律背反をどう処理するか
だが、きっかけを増やすと、H以外のイベントCGが増える傾向がある。
――じゃあ、増やす。
おい。
CG枚数が増えると開発期間が延びるぞ。その間の会社の経費は、だれが支払うんだ。
――社長さん。
ドアホ!
会社をパトロンにするな! 金を払ってるのはてめえたちだぞ! てめえたちが食いぶちを稼いでいるのだ!
――うぐっ。
おまえのポケットマネーで、延びた分の経費を払うのならCGを増やし、発売日を延期するがいい。だが、そうでないならば、絶対に発売日を延ばすな! 発売日を延期してユーザーとショップに迷惑をかけるな!
――は、はい……。
おまけにCG枚数を増やすと原画家さんに迷惑をかけることになる。たいてい原画家さんの場合、後ろに予定詰まってるからな。おれも迷惑かけたことある。
――人でなし。
ぐ、グサッ!
と,、とにかくだ。
できるだけ初めに決めたCGの数でやりくりしろ。エッチと非エッチの配分は変えて構わん。それでなんとかやりくりしろ。
それか、イベントCGを作らなくてもできるシーンを考えろ。
――難しい。
当たり前だ。きっかけを増やすとCGが増える。そこをうまく抑えながらいい話を書いていくのがシナリオライターなのだ。ユーザーさんにはわかりにくいが、隠れた腕の見せ所だな。
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