第14回 「提出用のプロットを書こう」
 

 ――ねえ、聞いて聞いて。
 さらばだ。
 ――待ってよう、いい話なのに。
 ピクッ。
 なに、いい話だと。
 ――ボクチン、今度仕事することになったんだ。
 ああ……終わったあ。
 ――それでさ、最初に粗筋出してくれって言われたんだ。この間みたいにプロットの3ポイントだけ出したら、こんなメモじゃなくてもっとちゃんとしたのじゃないと駄目だって言われちゃった。
 うむ、そのまま仕事を断ってしまえ。そのほうが身のため世間のためだ。
 ――いやだよう、いい話なんだもん。ボクチン、がんばるんだあ。だから教えて。
 断る。
 ――教えてよお。教えてくれないとお腹でプレスするぞ。ぼよんぼよん♪
 ごわあっ! ま、ま、待て、話せばわかるっ!
 ――ぐふふ……やる気になった?
 や、やる気になりました! 粗筋を見せてくださいっ。
 ――はい。


助手のだめだめな粗筋

 (初め) ボクチンはデブだけどハンサムな少年。恋に憧れているが彼女はまだいない。
 (変化のきっかけ1) クリスマス、バイトでサンタクロースをすることになったボクチンは、バイト仲間のマリアと会う。
 (変化のきっかけ2) 正月、偶然マリアと再会。悪漢に襲われているマリアを贅肉ボンバーでボクチンが倒す。
 (変化のきっかけ3) 成人式の後のマリアに再会。そこでボクチンは華麗なテノールを披露、マリアが陶酔。
 (結末) バレンタインの日、彼女はチョコレートとともに処女を捧げる。

◆結末は「……」で終わるな!
 おい。
 ――なに?
ばきぃ〜〜〜っ!
 ――ぐはあ……。ぐへ、ぐへぐへっ、なにをするんだ、いきなり。
 なんだ、このプロットポイントは! よくこんな企画が通ったな。
 ――えへへ、ボクチンの人徳のなせる技……。
 ばきっ! どがどがどがっ、ばきぃ〜〜っ!
 ――……………………。
 おや、ずいぶんと静かになったな。気のせいかな。
 さて、講義をつづけよう。
 実際に会社と仕事をする場合。
 詳細なプロットを要求される場合がある。3つプロットポイントを書き連ねただけのメモを提出しても、「じゃあ、この話で進めてください」と言われるのは稀なほうだろう。
 はじめから終わりまで、ちゃんとした筋書きを提出することが必要となる。
 ――終わりって?
 ややっ。いつの間に復活した。なかなかしつこいやつだな、おまえも。
 ――うへへ……。ボクチン、贅肉と体力だけはありあまってるの。
 納得。
 ――ねえねえ、終わりまで書くって、「そうして二人は……」で濁しちゃだめなの?
 ならんっ!
 会社はラストもちゃんと見てるんだぞ。ラストも見て、じゃあ、こいつに金出そうかって考えるんだ。
 ――そっかあ。
 ラストを省略してはいかん。
 ちゃんと、ラストも書いてしまうこと。

◆タイムテーブルとは?
 今回の講義のテーマは、提出用の筋書きをどうやって書くかだ。
 まず、前提は……。
 ――ラストをしっかり書くこと。
 うむ。
 だが、ラストを書いただけでは筋書きにならん。
 ――全部書けばいいんでしょ? でも、すぐ全部のイベントを思いつけって言われても思いつかないよ。
 ふっ、甘いな。
 ――どういうこと?
 ちゃんと秘密兵器があるのだ。
 ――それって、波動砲?
 スカ!
 タイムテーブルだっ!
 ――タイムテーブル?
 イベントをキャラクターと時間に従って書き込んだ表みたいなものだ。
 まあ、見ろ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           12月             1月            2月            3月
         クリスマス            正月          バレンタイン         卒業
 高野美紀
 
 神楽咲美

 エミリー

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――なに、これ?
 これがタイムテーブルだ。おれの場合、いらなくなったA4の紙やB4の原稿用紙にこんなふうに書いてしまう。
 ――白紙だよ。
 これから埋めるのだ。
 ――12月とか1月とか、並んでるのはなに?
 時間だ。横軸が時間だ。
 ――クリスマスとか、正月は?
 起こしたいイベントだ。全員に共通させてもいいし、目安にしてもいい。これで、どういう感じに話を仕上げるか、だいたいの見当をつけるんだ。
 ――ふ〜ん。じゃあ、縦にキャラクターの名前が書いてあるのは?
 キャラクター別にイベントを埋めていくんだ。
 ――へ〜え。

◆タイムテーブルでスタートからラストまでの流れをつくる
 では、実際に埋めてみるぞ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           12月                      1月                    
         クリスマス                      正月             

 高野美紀  美紀がクリスマスケーキを          着飾った彼女とお参り
         持ってきてくれる。               彼女にどきどきする
 
 神楽咲美 (他の二人と約束がないときだけ)      ひとりで神社に出かけると偶然再会
         イブに一人の咲美と会う。          
         ディナーに誘う
         (少し咲美うれしそう)

 エミリー    強引に誘われる                着物姿のエミリーが押しかける。
                                   そのまま、羽根突き大会イベント。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ここまでが12月と1月の分だな。
 ――結構大まかだね。
 まだだいたいだな。これでも、スタートからラストまでの流れがつくれる
 ――それが粗筋だもんね。
 そうだ。
 でも、今見せた分だと、まだイベントを連ねただけにしかならないので、もう少し細かく小さなイベントを書き込んでいくのだ。
 ――ふ〜ん。面倒くさくない?
 そんなことはないぞ。タイムテーブルのおかげでマルチな話がつくりやすくなるのだ。3人の動きを一度に把握できるからな。
 ――おお、なるほど。
 もう少し書き加えてみよう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
           12月
         クリスマス

 高野美紀  美紀がクリスマスケーキを → 御礼を言いに行くと美紀、   
         持ってきてくれる。       風邪でダウン。見舞ってやる。  
 
 神楽咲美 (他の二人と約束がないときだけ)→咲美を送っていく      
         イブに一人の咲美と会う。     途中美紀に目撃     
         ディナーに誘う          「なんだ、うまくやってるんだ」
         (少し咲美うれしそう)       と美紀に誤解される

 エミリー    強引に誘われる  → スキーイベント    →  正月の約束
           スキーの約束    上にのしかかる
                       どっきりイベント発生
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――あ、だいぶお話がつながってきた。
 そうだろう。
 この作業を繰り返していくと、だいたいの粗筋が完成してしまうのだ。
 ――おお。
 おまけにこのとき、CGが必要なやつには「CG」と書いておけば、必要なCGの枚数もカウントすることができる
 ――おお。確かに秘密兵器。

◆タイムテーブルが完成したら、エディターで流れを書く
 でも、これで提出用の粗筋が出来たわけじゃないぞ。
 あくまでもタイムテーブルで出来るのは、全体の流れ、ストーリーの見取り図だ。粗筋そのものではない。
 ――これからどうするの?
 流れがつかめたら、エディターでキャラクター別にイベントの流れを書いていくのだ。
 ――タイムテーブルを見ながら?
 そうだ。線画でいえば、クリーンナップみたいなものだな。
 たとえば……。

 4月
 大輔、ゆずかと再会。パンで争う。反感を持たれる。
          ↓
 大輔、ゆずかが大門と付き合っていることを知る。
          ↓
 大輔、ゴールデンウィークにバイトすることに。
          ↓ 
 5月
 大輔、バイト先でゆずかと鉢合わせ。
     役立たずぶりを発揮(CG)
          ↓
     怪物、ゆずかの部屋に出現(CG)
          ↓
     大輔がゆずかを退治(CG)
     いっしょの部屋で寝る(どきどき)

 ――これ、そのまま出しちゃっていいの?
 会社がいいと言えばいい。駄目な場合は、矢印を取っ払って、文章にしてまとめればいいだろう。
 ――ふ〜ん。粗筋つくるのって、どのぐらいかかるものなの?
 早ければ1日か2日だな。イリュージョン時代も、一本道のお話なら、半日から1日ぐらいでプロットをあげていたな。
 ――じゃあ、ボクチンは1カ月かかって……。
 ゴン!
 そんなに待ってられるか!

 

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